発表要旨 仲田 哺乳類の内、胎盤が発達したグループを有胎盤類と呼び、 19の目(もく)に分類されている。 この目の間の系統関係は形態からは不明であったが、 最近 Murphy et al. 2001 は複数の遺伝子の配列セットを Bayesian 系統解析法によって調べ、 有胎盤類が Afrotheria, Xenarthra, Euarchontoglires, Laurasiatheria の4グループに分けられ、 最初に Afrotheria が、 続いて Xenarthra が残りのグループから分岐したことを示した。 Afrotheria と残りのグループの推定分岐年代は、 アフリカ大陸と南米大陸の分裂に対応しているという。 補足その1: Bayesian 系統解析法について ゼミのときは説明を省きましたが、 Murphy et al. 2001 と同じ Volume の Science に掲載された Review を紹介しておきます。興味の有る人はあたってみてください。 Huelsen, J. P. et al. Bayesian inference of phylogeny and its impact on evolutionary biology. Science 294, 2310-2314 (2002) 補足その2:最新の研究 ゼミの当日に見つけたため、軽く口頭で触れた論文について補足しておきます。 Murphy et al. 2001 以降に出版された論文で、 異節類(Xenarthra)の種数を13種にまで増やして 系統樹を描き直したものがあります。 系統樹のおおよその形については変更はありませんが、 根の位置についてはまだまだ考察の余地があると見ているようです。 Afrotheriaか、Xenarthraか、Afrotheria+Xenarthraが 最初に分岐した可能性があります。 Delsuc, F. et al. Molecular phylogeny of living Xenarthrans and the impact of character and taxon sampling on the placental tree rooting. Mol. Biol. Evol. 19, 1656-1671 (2002) Bayesian法が決して万能ではなく、 むしろ系統樹の信頼性を過大評価する傾向があることが示されました (Suzuki et al., 2003)。 具体的にはランダムに構成した配列から系統樹を作成し、 特定の樹形が支持される信頼度(ランダムに作られたので、 特定の系統樹が支持されてはいけない)を測っています。 その結果、本来信頼されてはならない樹形の信頼度が 必要以上に高くなる傾向が見つかり、 Baysian法には問題があることが示されました。 Suzuki et al. (2003)ではさらに、前述のMurphy et al. (2001)の 結果も過大評価であるとしています。 ただし、Murphy et al. (2001)の示した大分類に対しては 別の証拠も集まってきているため、 彼らの系統樹の大枠が崩れることはないと思います。 詳細に関しては確かにまだ一考の余地がありますが、 遠からず解析されるでしょう。また続報があれば紹介したいと思います。 Reference Murphy, W. J. et al. Resolution of the early placental mammal radiation using Bayesian phylogenetics. Science 294 2348-2351 (2001) Suzuki, Y., Glazko, G. V. & Nei, M. Overcredibility of molecular phylogenies obtained by Baysian phylogenetics. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99 16138-16143 (2003)