Genomics by RNAi

Last updated on Sunday 26th January 2003


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柿原 Date: 2003.01.19 Sun 14:14:59

C. elegans のゲノムスクリーニングを RNAiを用いてやった論文がNature に載りました。 形質転換したE. coli で導入プラスミドがdsRNAを発現するものを C. elegans に食べさせるだけでRNAiができるという安易さが 個人的には驚きでした。

C. elegans の予想される19427遺伝子中の86%について RNAiライブラリを作り、1200個くらいの突然変異体をとり 新しい原因遺伝子を特定しました。

新しくわかったことは、silencingされてleathalな遺伝子は Arabidopsis thaliana, Saccaharomyces cerevisiae まで保存されており、 発生完了後に現われる変異は Drosophiala melanogaster からヒトまで(動物界で) 保存されていることでした。さらに、C. elegans 特異的な 遺伝子に関しては主に発生完了後に関わっているということがわかりました。 つまり、発生に関わる遺伝子は界に非依存的に保存されていることが示唆されます。

あとは機能的に似ていいる遺伝子は1Mbpぐらいのクラスタに 集まっていることや、性染色体は発生過程では silencingされていることなどがわかったそうです。

非翻訳領域に応用できないことがRNAiの問題点として 挙げられていましたが、食べさせるだけでいいというのはかなり魅力的でしょう。

関連事項として、脂肪を蛍光標識して食べさせて、 同様にRNAiによる遺伝子silencingを行い、 脂肪蓄積の変化を調べた論文も掲載されており、 新しい脂質代謝遺伝子が特定されました。 Signal transductionの解析にもRNAiは使えるということみたいです。 新しい遺伝子の発見が肥満の遺伝子治療薬の発明につながるかもしれませんと 著者は言っていますが、たいてい最後には輝かしい今後の展望を 書くことになっているのであまり当てにはなりません。

参考文献:


仲田 Date:2003.01.20 Mon 12:41:25

脂質代謝のほうはともかく、ゲノムスクリーニングの話は面白そうですね。 時間があったら読んで見ます。 ゲノムレベルの情報は色んなデータが集まってきてるようですが、 もう少し分かりやすく整理された情報がそろそろ欲しくなってきます。 単に重要な遺伝子のリストアップにとどまらない、 そこから一歩踏み込んだ研究に期待したいですね(もう出てきてるんですかね)。


柿原 Date:2003.01.20 Mon 17:11:36

一歩踏み込んだ研究の一例として、Nature は脂質代謝を載せておいたみたいですよ。


仲田 Date:2003.01.20 Mon 18:43:27

もう一歩というのは、ゲノムレベルの情報の一部を使うのではなく、 もっと総合的かつ詳細に扱って欲しいなあという意味で言いました。 脂質の代謝系だけではゲノム情報を十分に活かしたとは言いにくいですし。 もちろん、脂質代謝の研究としてはいい仕事なんだと思いますよ。 ただ、脂質代謝にあまり興味がないと意義がわかりにくくて。

無い物ねだりかもしれませんが、ゲノム情報から(脂質のみならず) 細胞モデルの詳細な構築ができる時代が遠からず来ると期待しています。 例えば、RNAiからわかってきた必須遺伝子群の意味やつながりを 一個一個考えるのも不可能ではない(なくなる)と思います。


柿原 Date:2003.01.20 Mon 22:41:13

きっと分析の方が統合より簡単なんでしょうね。 でもE. coli はE-cell (コンピュータプログラムだけれども現実の生物のように振舞う細胞) プロジェクトで、細胞モデルを作ろうという動きがあるみたいです。 生理化学研究室ではBuchnera というアブラムシに寄生(共生) しているバクテリアのE-cellを作りたいなぁ、 というお話を助手さんから聞きました。

仲田さんの描いている図に10年で到達できるでしょうか。 僕らの代で終わるのは無理な気がしないでもないです。


仲田 Date:2003.01.21 Tue 11:57:00

E-cellプロジェクトは将来が楽しみですね。 完全なモデルは無理にしても(定量的な議論が難しそう)、 定性的にどんな酵素やら機構やらがある(いる=必要)ということぐらいなら、 うちらの世代が活躍している間に明らかになって来るんじゃないでしょうか。


仲田 Date:2003.01.21 Tue 11:57:47

これを人工生命と呼ぶかどうかも微妙な問題なんでしょうね。


かたやま  Date:2003.01.21 Tue 22:16:58

夏の生物情報科学の講義に出ると、E-Cellを越えて進展している様が 学べますよ。(仲田君の言うように、未発見酵素の in silico 予測とそのin vitro 発見もなされています。) 日本語の文献としては「代謝工学」という本が東京電気大学出版会から 出ています。 ただ、立体的な予測が無いと味気ないですが。

…なぜかタグがはじかれた…。(;;


仲田 Date:2003.01.22 Wed 14:45:19

Kamath et al. (2003)の方を読みました。 この先の進展が楽しみです。RNAi用のE. coli ライブラリーって、 ようするにC. elegans のノックアウトラインとして使えるようです。 この論文の中心が染色体構造やゲノム構造の解釈なのがちょっと不満ですが (せめてフェノタイプの仕分けとかがあると面白いと期待してたので)、 このライブラリーを使った個別の研究がこれから進むんでしょうね。


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