系統樹作成に外群が必要なわけ

Last updated on Sunday 20th July 2003


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仲田 2003.06.20 Fri 14:30:48
A, B, C の3種の系統解析を,塩基配列の情報を用いて行うことを考えて見ましょう。 あなたはある座位の塩基が,A, B, CでそれぞれT, T, Gであることを見つけました。 ここから系統がA, B, Cの系統関係が分かるでしょうか? 実は,分かりません。 A, Bが互いに近縁で,Cが離れているかもしれません(3種の祖先の配列はTで,Cの祖先でT→Gの置換が起こったか, 3種の祖先はGで,AとBの共通祖先でG→Tの置換が起こった場合) あるいはA(もしくはB)とCが近縁かもしれません(3種の祖先の配列はTで,Cだけの祖先でT→Gの置換が起こった場合)。 いずれの場合も,1回の塩基置換で説明ができてしまうため,特定の仮説がよりもっともらしいとは言えないのです。
では,何が分かればよいのかというと,ずばり,祖先の塩基配列です。 もし,祖先の配列がGであれば,AとBが近縁であると推測できます(この場合,上記の1回の塩基置換を仮定すればよいですが, AとCが近縁な場合,AとBのそれぞれの枝で独立にG→Tの置換が起きたか, 3種の祖先でG→Tの置換が起きた上に,Cの祖先でT→Gの置換が起きたと仮定しなければなりません。 いずれにせよ,2回の塩基置換を仮定しないとAとC(あるいはBとC)が近縁との仮説は説明できないので, 1回の塩基置換で説明できるA,B近縁説の方がより支持されるわけです)。 一方,祖先がG以外の場合は,特定の仮説が支持されることはありません(説明省略)。 この場合,この座位は系統解析には有用でないことになります。
で,どうやって祖先の塩基配列を推定するかというと,ABC以外の生物を比較すればよいわけです。 特に,ABCの作るグループ(内群)には入らないけれども,ABC全体にはまあ近縁という生物群(外群)を調べます。 かれらがGの配列を持っていれば,内群と外群の共通祖先はGの配列だと類推できるので, 結果として内群の共通祖先もGの配列を持っていたはずだと言えるのです。
ちょっとややこしいですが,以上が外群を調べなければならない理由です。 間違いや分からない点があったら,遠慮なく指摘,質問をお願いします。
かたやま 2003.06.20 Fri 15:53:54
ところで、全然関係ない質問。
原核生物と古細菌とを比べたとき、原核生物のほうがルートに近いという 証拠はあるの?化石記録ってことになるの?
仲田 2003.06.20 Fri 18:52:30
まず,古細菌は原核生物の一群です。 原核生物は,古細菌(Archaea : Archaebacteria)と真正細菌(Bacteria : Eubacteria)という二大分類群に分けられます。 このうち古細菌は真核生物と近縁であるとされており,この観点からすると, 真正細菌が祖先的(≒ルートに近い?)ということもできます。
かたやまさんの質問の意図は,「何故,古細菌と真核生物が近縁であることが分かったのか?」というものでしょうか?
もしそうなら,ちょっと長くなりそうなので,月曜日に書き込みたいと思います。 簡単に言うと,全生物が持っている重複遺伝子を用いた分子系統から証明されています。 ちなみに,化石記録からは示されていませんし,今後も不可能でしょう。
かたやま 2003.06.21 Sat 00:40:59
「何故,古細菌と真核生物が近縁であることが分かったのか?」 というよりは、なぜ真核生物と古細菌が近いと、真正細菌が祖先的になるのかな、ということが疑問です。 (真正細菌よりも圧倒的に)古細菌に似た祖先から全てが始まるのでは駄目なのですか? というか、こういう外群のとりにくい状態ではどのようにしてルートを決めるのだろう、という疑問です。
柿原 2003.06.21 Sat 08:09:06
どうもありがとう。なんとなくわかったようです。 近くて遠いのが必要なんですね。
仲田 2003.06.23 Mon 18:38:17
柿原さん こちらこそ,改めて考えてみて理解が深まりました。

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