珍渦虫の衝撃

Last updated on Friday 26th September 2003


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仲田 2003.08.24 Sun 21:16:03
珍渦虫(Xenoturbella)という正体不明の動物がいます。 肛門も閉じた腸も体腔もなく、とにかく単純極まりない動物です。 昔は渦虫(プラナリアなど)の原始的な仲間と考えられたこともあるようです。 東大の上島先生がここ数年、紹介記事などを書かれていますが、 1997 年にこの生物の DNA が解析された結果、彼らは二枚貝であり、体内から発見された幼生もそれを支持していたそうです。

ところが、最新号のNatureで衝撃的な展開がありました。 なんと、珍渦虫は実のところ二枚貝ではなく、 棘皮動物、半索動物、脊索動物からなる新口動物に含まれるというのです。一体何が起こったのでしょうか?

実は、この論文の著者によると、別のグループによる1997年の論文のデータはコンタミだろうというのです。 珍渦虫をそのまま PCR で調べると、二枚貝のものも含めた2種の配列が得られるんだそうです。 それで、珍渦虫の腸の内容物を除去すると、二枚貝のバンドが減るんだそうです。 つまり、以前の研究では餌の遺伝子が調べられていたいう話になりました。 上島先生によると、軟体動物(貝類)の研究者としては納得できる結果だそうです。

というわけで、教科書が書き換わったわけですが、珍渦虫の新たな配列は 新たな驚きも運んできました。彼らが新口動物に含まれるのはかなり確かなようで、 しかも、おそらく原始的な体制を残した新しい門に相当する可能性が高いのです。 これは脊索動物の起源の論争にも影響を及ぼすことが予想され、 マイナーな生物が今後、一気に表舞台に飛び出るかもしれません。 ただ、祖先的な門には違いなさそうなんですが、 そこから激しく退化したのもまた確かなようで、 どこまで情報が得られるのかは未知数です。

Bourlat, S. et al. Xenoturbella is a deuterostome that eats molluscs. Nature 424, 925-928 (2003).

News and views
Gee, H. You aren't what you eat. Nature 424, 885-886 (2003).

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