哺乳類の祖先はねずみぢゃない!

Last updated on Tuesday 23rd September 2003


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仲田 2003.08.14 Thu 18:14:32
昨年、有胎盤哺乳類の系統関係に関する発表を行いました。 その後、研究に多少の進歩はありましたが、本質的なところでは昨年の紹介内容は依然として有効です。

さて、有胎盤哺乳類の最初の分岐には4つの仮説があります。 その内、げっ歯類(ネズミなど)が有胎盤類の祖先群であるとする仮説は 核の遺伝子の証拠によって排除される傾向にあり、ゼミでもそのように紹介しました。

しかしながら、ミトコンドリア遺伝子の証拠からこの仮説にこだわる研究者も存在し、 最新の日経サイエンスの記事においても、げっ歯類が祖先に近いとする系統樹をあたかも定説のように紹介したケースがありました。

ですが、現在の知見を総合するとこの仮説は誤りと言わざるを得ません。 ましてや、定説ではないということは、この掲示板をごらんの皆さんには知っておいて欲しいと思います。

その根拠は、ゼミ発表時には核遺伝子の配列のみしかありませんでしたが、その後、別の証拠が増えてきました。

まず、2つのタンパク質のアミノ酸配列に Euarchontoglires に特異的な欠失が発見されました(Poux et al., 2002)。 Euarchontoglires というのは、げっ歯類、ウサギ類、霊長類などから成るグループで、 これが単系統群であることが示されたわけです。 Euarchontoglires が単系統群であるならば、その中に有胎盤類の根があるはずはありません。 アミノ酸配列の欠失(片方では18アミノ酸にもおよぶ)が収斂などによって起こるとは到底考えられないので、 この証拠によって、げっ歯類祖先仮説はほぼ棄却されたと言えます。 その後、同じ筆者らがタンパク質や生物種を追加して、 この証拠をさらに補強、評価する論文もでています(de Jong et al., 2003)。

以上のような、確実性の高い証拠に基づけば、げっ歯類(+ウサギ類など)は霊長類に近い派生的な系統であって、 有胎盤類の祖先群ではありえないと結論付けられます。 この議論については、もはや覆ることはあり得ないと思われますが、 しばらくは旧来の誤解が残ると予想されるので、特に注意が必要でしょう。 モデル生物であるネズミと、我々ヒトとの関係は最新の動物学にとっては重要な意味を持ちますし・・・

Reference
de Jong, W. W. et al. Indels in protein-coding sequences of Euarchontoglires constrain the rooting of the eutherian tree. Mol. Phylogenet. Evol. 28, 328-340 (2003).
Poux, C., van Rheede, T., Madsen, O. & de Jong, W. W. Sequence gaps join mice and men: phylogenetic evidence from deletions in two proteins. Mol. Biol. Evol. 19, 2035-2037 (2002).

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